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連載コラム ハナミズキサンポ

ハナミズキサンポ

北と南の間で

   まだまだ暑いですが、暦の上ではもう秋。いよいよ、お散歩のベストシーズンが到来です。さあて、どこへ行きましょう? いやいや、目的がないのがお散歩の醍醐味。気の向くまま、靴の向かうところへ——。
 靴といえば、最近知人の女性が足の痛みを訴えていました。なんでも普段使いの靴が足に合わず、外反母趾になってしまったとのこと。これじゃ、お散歩もご一緒できないわね。そう言われて、私は思い出しました。fitfitという靴屋さんは、足に優しい靴を作っているらしい。

 さっそく彼女を誘って、お店に行ってみました。レザーで作られた靴は、折り曲げられるほど柔らかくて、履き心地も良いそうです。さらにデザインによっては、職人の手仕事で仕上げられているものもあるとか。

 「歩きやすい靴って、見た目がいかにも『年配向け』っていうのが多いでしょ。けど、ここのは上品でいいわね」
 にっこりと微笑む彼女を見て、私は嬉しくなりました。ではでは、素敵な靴でお食事に参りましょうか。

   おいしいものを食べたいと思ったとき、私は天ぷらを選びがちです。それも、おいしそうな店主がいる店ならなおよし。
 ハゲ天は、まさにそんなときにぴったり。ガラス張りの厨房では、恰幅の良い店主が次から次へと天ぷらを揚げています。ここにも職人がいましたね。

 熱々を一つずつ運んでくれるのが、また嬉しい。ほくほくの穴子やぷりぷりの海老といった定番に加え、季節の野菜を食べて大満足。なのにああ、デザートにアイスクリームの天ぷらって! 食べずに帰れないでしょう!

「じゃあ、消化のため歩きましょうか」

 素敵な靴を履いた彼女は、七十代。私よりもよほど元気で、お散歩好きです。しゃきっと背筋を伸ばして、一歩を踏み出す。その軽やかな足取りにつられ、さて私も一歩。

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Text by 坂木 司

1969年、東京生まれ。覆面作家。2002年に、ひきこもり探偵・鳥井真一とその友人・坂木司を主人公にした連作短編集『青空の卵』でデビュー。その他の作品は「ワーキング・ホリデー」、「和菓子のアン」など多数。

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