Dogwood Plaza

連載コラム ハナミズキサンポ

ハナミズキサンポ

海への長い道のり

  東京純豆腐に、女友達と入った。鍋物っていいよね。突然の言葉に、僕は首を傾げる。そりゃあ夏のスンドゥブもうまいけどさ、急に、なに?
「だって豆腐料理っていうのがまず良いし、それに野菜と魚介ならなお健康的。
そこに唐辛子とか加わったら、汗もかくしなんかちょっと痩せそうな気もしない?」
  ああ、そういうハナシね。うなずきながら、僕は追加で頼んだチーズと明太子を鍋に投入する。これ、とろっと糸引いた上にコクも出て、いいんだよなあ。
「今度、みんなで海行くんだ。で、水着やばいなーって」
  僕はふわふわの豆腐をすくいながら、上の空で相づちを打つ。ああ、味噌とチーズが合うって最初に気づいた人は誰なんだろう。天才すぎる。ていうか、魚卵を汁に入れるとうまいなんて、この店に来るまで知らなかった。
「ねえちょっと、ズルい!」
  僕のトッピングに気づいた友達が、鍋を指さす。ズルいっていうか、そこは選択の自由ってやつでしょ。

  でもちょっとごめんな気持ちもあったので、濱文様に移動して、コネタを披露してみる。二子玉川店には、店舗限定の絵柄が結構多いんだよ。
「犬と花は、犬を連れて散歩するような街、っていうのと街のシンボルのハナミズキを現してるんだってさ」
  ちなみにハナミズキを英語で言うと、ドッグウッド。そう言うと、友達はへえと声を上げる。
「ハナミズキと246っていうのもあるよ」
「これはラブリー過ぎないから、君でもいけるんじゃない」
  あ、でも。友達は笑いながらもう一つの限定絵柄に手を伸ばす。
「東急線柄。鉄っちゃんにぴったり」
  にやにや笑う友達に向かって、僕はむっとした顔をしてみせる。
「正しくは、大井町線。ちなみに濱文様では日暮里や東京、大宮、それに札幌でそれぞれの駅名が入った電車柄が買える。東北新幹線柄なんかもあるし、鉄的には要チェックなお店だよ」
「あっそ」
  友達は呆れたようにつぶやくと、富士山柄のガーゼタオルを手に取った。
  僕が女の子と海へ行く日は、まだまだ遠そうだ。

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Text by 坂木 司

1969年、東京生まれ。覆面作家。2002年に、ひきこもり探偵・鳥井真一とその友人・坂木司を主人公にした連作短編集『青空の卵』でデビュー。その他の作品は「ワーキング・ホリデー」、「和菓子のアン」など多数。

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